社会保険の特定適用事業所になるって何?
2024.08.01
今回は、健康保険法、厚生年金保険(以下、社会保険という)における「特定適用事業所の企業規模要件の法改正」について、取り上げさせていただきます。
そもそも特定適用事業所って何?
特定適用事業所についてですが、平成28年10月1日から開始された制度でして、当時の企業規模要件は、法人単位で、厚生年金保険の一般被保険者501人以上の場合に、特定適用事業所となり、週間20時間以上、その他一定の要件を満たせば、短時間労働者も社会保険に加入する必要のある事業所のことを言います。
ちなみに令和4年10月1日には、法人単位で、厚生年金保険の一般被保険者101人以上の場合に、特定適用事業所になることがルールと改正され、現在に至っており、令和6年10月1日より、さらなる法改正(いわゆる社会保険の適用拡大)により法人単位で、厚生年金保険の一般被保険者51人以上の場合に、特定適用事業所となることになり企業規模要件は、101人以上から51人以上に変更されます。
短時間労働者の要件
特定適用事業所になると、何がどう変わるのかについてですが、簡単に言いますと、1週間の勤務時間20時間以上のすべてパート、アルバイトの従業員が、社会保険に加入しなければならない可能性があるということです。
もちろん、特定適用事業所の被保険者になる場合の要件はあります。
・1週間の所定労働時間が20時間以上、勤務していること
・1カ月の所定内賃金が8.8万円以上であること
・昼間学生でないこと
・2ヶ月間を超えて使用される見込みがあること
これらの要件をすべて満たすと、被保険者となります。これを「短時間労働者」と言います。また短時間労働者ではない被保険者は、一般被保険者といいます。一般被保険者の要件は、正社員の1月の所定労働日数、かつ1週間の所定労働時間が4分の3以上の者となります。
特定適用事業所になる流れ
では、令和6年10月1日以降、どのように特定適用事業所となるのでしょうか?
これは過去1年間の厚生年金保険の一般被保険者の人数が、6カ月以上、51人以上の加入が認められた場合に、特定適用事業所になります。実際には、直近11カ月の内、5カ月以上が51人以上の企業に対して、「特定適用事業所に該当する可能性がある旨のお知らせ」が送付されます。そして、被保険者51人以上の場合には、適用事業所該当届を提出して決定されるという流れになります。
特定適用事業所になると、「短時間労働者」に該当する従業員を、適用日から社会保険に加入させなければならなくなります。
短時間労働者の要件に該当するか、しないかの判別が難しい場合には、予め従業員ご本人と勤務時間について、個別にご相談の上、所定労働時間及び所定労働日数を決めていくのがよろしいかと考えます。
社会保険料について
令和6年10月以降に、特定適用事業所になり、短時間労働者の要件に該当する場合には、当然ながら企業側の社会保険料の負担も増加いたしますので、予め事業計画等に勘案しておくのが重要と考えます。
※社会保険料の負担割合は、健康保険料、介護保険料、厚生年金保険料は、企業と従業員で保険料を折半して負担し、子ども子育て拠出金のみ企業が全額負担となっております。そして毎月の給与計算においても、社会保険料を控除の上、企業が保険料を納付することになります。
社会保険の事務手続きも増加するとともに煩雑に
特定適用事業所になりますと、「一般被保険者」と「短時間労働者」に区分されます。年に1回、標準報酬月額を定時決定するための、算定基礎届や、昇給等、固定給に変動があったときに標準報酬月額を随時改定するための月額変更届の手続きを行う場合、「一般被保険者」の場合には、1カ月17日以上勤務した月が有効となる月であるのに対して、「短時間労働者」の場合には1カ月11日以上勤務した月が有効になる等、日数のカウントが大きく異なります。
また、労働条件が変更された場合には、「一般被保険者」から「短時間労働者」への変更や、逆に「短時間労働者」から「一般被保険者」に変更することもございます。
このように企業が行わなければならない事務手続きの負担が増加し、かつ内容も今まで以上に煩雑になっていきますので、お困りの際には専門家にご相談することをお勧めいたします。
まとめ
今回、社会保険の特定適用事業所の適用拡大について、ご説明させていただきました。先日の7月3日に厚生労働省の有識者懇談会が「短時間労働者の適用に関する企業規模要件の撤廃」を柱とする報告書をまとめたと報道されておりました。将来的には、人数による企業規模要件は関係なく、すべての事業所が、現行法でいう「特定適用事業所」になるということが予想されますので、各企業は後々そのようになることを想定の上、経営していく必要があると考えます。
もし、特定適用事業所となる通知が到着した場合でも、実際には退職等で被保険者が減少しており、その後、人数の規模要件に満たないような場合には、不該当届を提出することも可能ですので、このような場合にはお気軽にご相談ください。