試用期間と有期契約の違い
2026.09.30
ここ数年、企業は人手不足の中、採用活動に大変ご苦労されているように見受けられます。そのような中、試用期間中の解雇や有期労働契約の雇止めのご相談がとても多くなっていると感じられます。
今回は、期間の定めの無い労働契約における試用期間と、有期労働契約の契約期間の違いについて、整理解説いたします。
1. 試用期間
1-1 試用期間とは
試用期間とは、企業が就業規則や個別の労働契約等により定めるものであり、本採用する以前に実際の業務を通じてその適格性や能力、勤務態度などを見極めるために設ける期間です。
但し、本採用前だとしても、労働契約法においての労働契約(雇用契約)は成立しているため、要件に該当すれば、社会保険や雇用保険には当然、適用されます。
1-2 試用期間の法律的な位置づけ
試用期間の法律的な位置づけとしては、最高裁判例(三菱樹脂事件)により「解約権留保付労働契約」と定義されています。
解約権留保付労働契約とは
• 試用期間の初日からすでに労働契約(雇用契約)は成立しています。
• 採用時には知ることができなかった適格性の欠如などを理由に、後から会社側が契約を解除(解雇)できる権利を留保している状態を指します。
• 雇用契約が結ばれているため、労働基準法や最低賃金法、社会保険・雇用保険などの各種法令が初日から全面適用されます。
1-3 試用期間の期間について
試用期間の長さについて法律上の定めはありませんが、実務上は2ヶ月〜6ヶ月程度が一般的です。制度運用にあたっては就業規則への定めと労働条件通知書への記載が必要であり、会社が一方的に口頭で設けることはできません。なお、判例上、1年を超えるような長すぎる試用期間は公序良俗違反で無効となるリスクがあります。
長い試用期間を設ける場合には、本採用の採否判断に必要な客観的・合理的な理由(例:一定期間のプロジェクト完了まで採否判断できない等)が求められます。
1-4 試用期間と解雇(本採用拒否)
企業が試用期間中や試用期間満了時に本採用拒否することは、通常の解雇と同等の取り扱いとなります。
• 労働契約法第16条の適用:「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」は権利濫用として無効になります。
• 解雇予告の必要性:労働基準法上の解雇予告(30日前の予告または解雇予告手当の支払い)が必要です(※入社日から14日以内の場合は試みの使用期間中のため除外)。
• 改善指導の履歴:勤務態度や職務遂行能力等に問題がある場合、企業側は再三にわたる改善指導を行う必要があります。
2. 有期労働契約
2-1 有期労働契約とは
有期労働契約とは、あらかじめ働く期間(雇用期間)に定めが設けられている労働契約のことです。契約社員、パートタイマー、アルバイト、派遣社員などの雇用形態で広く結ばれています。
2-2 契約期間の上限
1回の契約で結べる期間の上限は、労働基準法第14条により原則3年です。
なお、高度な専門知識を持つ者や、満60歳以上の労働者の場合は上限5年となります。
2-3 雇止め法理
契約期間の満了時に契約を更新しないことを「雇止め」と呼びます。契約が何度も更新されて実質的に無期雇用と変わらない状態にある場合や、継続雇用の合理的な期待がある場合には、客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当と認められない雇止めは無効となります(労働契約法第19条)。
• 実質無期契約型:反復更新され、実質的に期間の定めのない雇用(正社員)と同視できる状態になっている場合
• 期待保護型:更新手続きが形式的、または「次も更新する」といった言動などにより、労働者が「次回も更新される」と期待することに合理的な理由がある場合
2-4 雇止めの予告
厚生労働省の告示(「有期労働契約の締結、更新及び雇止め等に関する基準」)により、次のいずれかに該当する有期契約労働者を雇止めする場合、30日以上前に予告が必要です。
• 有期労働契約が3回以上更新されている場合
• 通算契約期間が1年を超えている場合(1年以下の契約が反復更新されて通算1年超となった場合を含む)
• 契約期間が1年を超える契約を締結している場合(例:当初から2年契約を結んでいる場合など)
2-5 争いとなった場合の雇止めの可否を判断する4つの基準
• 業務の客観的状況(業務量の減少・終了)
担当業務が一時的・臨時的なものか、恒常的な基幹業務かを確認します。「特定の受託プロジェクトが完了した」「担当部署が廃止され他業務の斡旋が困難」といった明確な事実が必要です。
• 労働者本人の適格性(能力不足・勤務不良・規律違反)
能力不足や規律違反を理由とする場合、単なる印象ではなく、指導・警告の履歴、改善機会の付与(研修・面談等)、人事評価シートの記録が証拠として残っているかが問われます。
• これまでの更新実態(期待権の有無)
過去の更新回数、勤続年数、更新手続きが形骸化していなかったか(期日後の事後更新になっていなかったかなど)を評価します。長年更新が続き、自動更新に近い運用をしていた場合は期待権が高く認められます。
• 類似雇用の取扱い・代替措置の検討
同一職種の他の有期雇用労働者は更新されているのに、対象者だけを雇止めする場合は「選定基準の合理性」が問われます。また、他部署への配置転換など雇止め回避措置を検討した履歴も重要です。
3. 試用期間と有期契約期間の違い
試用期間満了に伴う解約(いわゆる「本採用拒否」)と有期労働契約の「雇止め」は、いずれも「一定期間の後に雇用関係を終了させる」点で似ていますが、元の契約形態・法的な位置づけ・適用されるルールが大きく異なります。
主な相違点を比較表と詳細で整理します。
比較一覧
| 比較項目 | 試用期間満了後の解雇 (本採用拒否) |
有期労働契約の雇止め | |
| 契約形態 | 原則として無期労働契約 (正社員等) |
有期労働契約 (契約社員、パート等) |
|
| 法的性質 | 解雇 (解約権留保付無期雇用契約の解約) |
契約期間満了による契約終了 (更新の拒否) |
|
| 適用される 主要法条 |
労働契約法第16条 (解雇権濫用法理) |
労働契約法第19条 (雇止めの法理) |
|
| 有効性の 判断枠組み |
「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」が必要 | 原則は「期間満了で終了」 | |
| ※通常の解雇より解約権留保の趣旨の分だけ裁量は広いが、 解雇と同等の厳格な基準 |
ただし実質無期型・期待保護型に該当する場合、解雇権濫用法理が類推適用される | ||
| 予告義務・ 予告手当 |
労基法第20条が適用 ・30日前の予告 または 解雇予告手当が必要。 ※開始14日以内を除く |
厚労省告示基準 ・一定要件(通算1年超等)で30日前予告が必要 ※解雇予告手当の法定規定はない |
|
| 契約期間の 性質 |
「適格性を見極めるための期間」 | 「あらかじめ合意された雇用の存続期間」 |
詳細な3つの相違点
3-1 法的性質:「解雇」か「期間満了」か
• 試用期間満了後の本採用拒否
法的には「解約権留保付無期労働契約」の「解雇」そのものです。採用時点で無期雇用契約が成立しており、適格性を判断するために一定の解約権を留保しているに過ぎません。そのため、通常の解雇と同じ枠組み(労働契約法第16条)で厳しく判断されます。
• 雇止め
契約期間の終了に伴い「更新しない(新たな契約を結ばない)」行為です。解雇そのものではなく、原則としては契約満了による終了ですが、更新実績や期待権がある場合に例外として「解雇と同等の厳しさ」で規制(労働契約法第19条)されます。
3-2 求められる理由・判断ハードルの違い
• 試用期間満了後の解雇
通常の解雇に比べれば「適格性見極め」という留保解約権の趣旨からやや広い裁量が認められますが、それでも「採用時には知り得なかった重大な適格性欠如」や「指導・改善機会を与えても改善しなかった客観的事実」が必要です。単に「少し期待と違った」程度では無効(違法解雇)になります。
• 雇止め
1回目の満了時(かつ更新期待が乏しい場合)であれば、契約満了として終了させることが原則可能です。ただし、契約が複数回更新されている場合や、採用時に更新期待を持たせる言動があった場合は「雇止めの法理」が働き、本採用拒否と同等以上に厳しい合理性・相当性が求められます。
3-3 手当・予告義務の法的根拠
• 試用期間満了後の解雇
労働基準法第20条の「解雇予告」が直接適用されます。満了日をもって退職させる場合、満了の30日以上前に予告するか、不足日数分の解雇予告手当を支払う必要があります(採用後14日を経過している場合)。
• 雇止め
契約期間満了であるため、労働基準法上の解雇予告手当の義務は原則ありません。ただし、厚労省の告示基準により、3回以上更新または通算1年を超える場合は「30日前までの事前予告」が義務付けられています。
4. 実務上の注意点
• 試用期間目的での有期契約運用における注意点
実務上、「正社員としての適格性を見極めるため、最初の1年間を有期契約(契約社員)で雇用する」という運用が散見されます。しかし、最高裁判例(神戸弘陵学園事件等)では、契約形態が有期契約であっても実質的に「試用期間(適格性の見極め)」と認められる場合、期間満了による単純な雇止めは認められず、解雇と同等の厳格な理由が必要となるリスクがあります。
• 2024年4月施行の労働条件明示ルール
有期労働契約の締結・更新時には、2024年4月以降、「更新上限の有無と内容」および「無期転換申込機会・無期転換後の労働条件」の明示が義務化されています。雇止めトラブルを防止するためにも、契約締結時の明示ルールの徹底が重要となります。
まとめ
無期契約の試用期間と有期労働契約期間の違いについて、法的性質の違い、本採用拒否と雇止めの違い、予告・手当の違い等をご説明させていただきました。労使ともに両者の法的な違いを正しく理解し、トラブルを防ぐための慎重な運用が重要です。
免責事項
※本記事は執筆時点における一般的な情報提供を目的として作成されたものであり、個別具体的な労務トラブルや法的判断を保証するものではありません。個別の労務問題については、社会保険労務士または弁護士等の専門家にご相談ください。