「特定適用事業所の社会保険適用拡大」企業規模要件の段階的縮小・撤廃の実務への影響
2026.08.17
近年、政府が進める社会保険の適用拡大ロードマップにおいて、極めて重要な法改正が決定しています。短時間労働者(パート・アルバイト等)が社会保険に加入するにあたり課されていた特定適用事業所の「企業規模要件(厚生年金保険の被保険者数)」について、今後、段階的な縮小を経て最終的に撤廃(10人以下の全事業所への適用)される方針が示されました。
本記事では、この「企業規模要件の段階的縮小・撤廃」に焦点を当て、その具体的なスケジュール、実務上のインパクト、および事業主に求められる備えについて実務的な視点から解説します。
1. 企業規模要件の段階的縮小・撤廃スケジュール
年金制度改正法に基づき、適用対象となる企業規模要件は、令和9(2027)年から令和17(2035)年にかけて以下のように段階的に縮小され、最終的には10人以下の事業所にまで適用が拡大されます。
| 適用時期 | 企業規模要件 (従業員数 ※厚生年金保険の被保険者数) |
| 現在 | 従業員51人以上 |
| 令和9(2027)年10月〜 | 従業員36人以上 |
| 令和11(2029)年10月〜 | 従業員21人以上 |
| 令和14(2032)年10月〜 | 従業員11人以上 |
| 令和17(2035)年10月〜 | 従業員10人以下 (完全適用・事実上の規模要件撤廃) |
現在設定されている「51人以上」という基準から、今後約10年をかけて小規模事業所へと段階的に縮小されていきます。これは、これまで法改正の影響を受けにくかった中小企業・小規模事業者にとっても、制度への適応が不可避となることを意味しています。
2. 賃金要件の撤廃と適用拡大のシナジー
企業規模要件の縮小と同時に重要となるのが、もう一つのハードルであった「賃金要件(月額8.8万円以上)」の動向です。
今般、すべての都道府県における地域別最低賃金が時給1,016円以上となったことで、週20時間以上稼働する労働者は自動的に月額賃金が8.8万円を超える状況となりました。 これに伴い、令和7年年金制度改正法に基づき、令和8(2026)年10月に賃金要件が撤廃される予定です。
賃金要件の撤廃と、上述の企業規模要件の段階的縮小・撤廃が合流することにより、将来的には「週の所定労働時間が20時間以上であり、学生ではない労働者」は、勤務先の事業所規模に関わらず、原則としてすべて社会保険(健康保険・厚生年金保険)の加入対象となります。
3. 企業規模要件未充足企業における「任意加入」と支援措置
適用開始スケジュール(ロードマップ)に達していない企業であっても、従業員の希望や労務環境整備の一環として、早期に短時間労働者を社会保険に加入させることが可能です。
任意加入制度
従業員の2分の1以上の同意があれば、企業規模要件を満たさない企業であっても、短時間労働者を社会保険に加入させることができます。
事業主への制度的支援(保険料調整制度)
令和8(2026)年10月以降に当該制度を利用して任意加入を行う場合、短時間労働者の保険料の一部を事業主が負担することで、3年間の制度的な支援(保険料調整制度)を受けることができます。早期加入を促進し、優秀な短時間労働者の確保や定着を図る事業者にとって、有効なインセンティブとなり得ます。
※厚生労働省のHPご参照
https://www.mhlw.go.jp/tekiyoukakudai/jigyonushi/shienseido
4. 実務における留意事項と手続き
社会保険の適用拡大に際し、事業主が実務上配慮すべき主なポイントは以下の通りです。
•被保険者資格取得届の提出: 週20時間以上稼働する対象者が要件を満たした段階で、日本年金機構等へ速やかに「被保険者資格取得届」を提出する義務が生じます。
•最低賃金の減額特例者への対応: 最低賃金法上の減額許可の特例対象者であり、月額賃金が8.8万円未満となる短時間労働者については、原則として社会保険の加入対象外となります(ただし、本人の申し出により任意で加入することは可能です)。
※実際には、過去1年間の厚生年金保険の一般被保険者の人数が、6カ月以上、企業規模要件の従業員数以上の加入が認められた場合に、特定適用事業所になります。
以下、弊所ブログをご参照
https://sr-katano.jp/blog/296.html
5. まとめと今後の経営・労務対応
特定適用事業所について、企業規模要件の段階的撤廃ロードマップにより、社会保険の適用拡大は全事業主が対応すべき恒久的な制度改正となりました。
直近で申し上げますと、令和9年10月からは、厚生年金被保険者が36人以上で、週20時間以上勤務する短時間の従業員が多数いるような場合は、法定福利費が大幅に増加する可能性があります。
経営者および人事労務担当者は、自社の該当時期を正しく把握し、人件費のシミュレーション、労働時間管理の見直し、従業員への制度説明などの準備を、余裕を持って進める必要があります。